【賃貸借契約における敷引特約の有効性】
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110325093237.pdf
最高裁は、
「賃貸借契約に敷引特約が付され,賃貸人が取得することになる金員(いわゆる敷
引金)の額について契約書に明示されている場合には,賃借人は,賃料の額に加
え,敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって,賃借人
の負担については明確に合意されている。そして,通常損耗等の補修費用は,賃料
にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき
金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面におい
て,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相
当であって,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということ
はできない。また,上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な
一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防
止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に
反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。」
として、敷引特約について有効である旨判断した上で、具体的な敷引金額を基に
次のとおり判断する。
「もっとも,消費者契約である賃貸借契約においては,賃借人は,通常,自らが賃
借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していな
い上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからする
と,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,賃貸人と賃借人
との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃借人が一方的に不
利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。
そうすると,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,
当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金
等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評
価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅
に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利
益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解する
のが相当である。