http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/714/085714_hanrei.pdf
民法752条は,夫婦の同居,協力及び扶助の義務について規定している が,これらは夫婦間において相互に相手方に対して負う義務であって,第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課するものではなく,しかも,同居の義務についてはその性質上履行を強制することができないものであり,協力の義務についてはそれ自体抽象的なものである。また,扶助の義務はこれを相手方の生活を自 分自身の生活として保障する義務であると解したとしても,そのことから直ちに第 三者との関係で相手方を監督する義務を基礎付けることはできない。そうすると,同条の規定をもって同法714条1項にいう責任無能力者を監督する義務を定めたものということはできず,他に夫婦の一方が相手方の法定の監督義務者であるとする実定法上の根拠は見当たらない。
したがって,精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとする ことはできないというべきである。
もっとも,法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このよ うな者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである。